最近士業の間でも「家族への信託のすばらしさ」がよく取り上げられていますが、弊所では、条件がきちんと揃わない限り、家族への信託はおすすめしにくいと考えています。
考えられる問題(デメリット)は、
1.親が財産を持たなくなるので、いざというときに主導権が握れない
2.親はもともと自分の財産なのに、自分で使えなくなる
3.信託時に決めた方針の変更が容易ではない
4.いざ信託をやめようと思っても至難のことが多く、親の財産になかなか戻せない
ということがあります。
任意でつけることのできる信託監督人がいても、
基本的に成年後見制度のように裁判所から命じられて任務に就く厳格な監督人(主に弁護士)ではないので、
監督も非常にルーズになるのではないかと考えられます。
もちろん、信頼できる子と信託契約を行うのは問題ないです。
本来、信託とは信頼関係をもとにした契約なので、信託の趣旨にあっているとも言えます。
でも、託された子どもにも
1.自分の財産ほか、親の財産を別に管理(貸借対照表などを作成)する必要がある
2.税金の申告の負担などもかかってくる
3.複数いる子どもの誰に託したのかで、もめることがある
4.財産の名義変更が必要 (贈与税・不動産取得税はかからない。登録免許税は安い)
5.贈与税や、相続時は普通に相続税がかかる (対策などをしていなければ)
といった負担が発生します。
ただ信頼できる子であれば、親を大切に思う気持ちがある子であれば、そういった負担も問題ないことと思います。
特徴的なメリットもあるので、いくつかの特徴を記載します。
- 信託は遺言の代わりを果たすこともできる
- 成年後見制度を補うことができる
- 親が個人で賃貸経営をされているとき認知症になっても、受託者が入居者との契約ができる
- 倒産隔離機能がある
- 相続人以外に利益が渡らないようにできる
などなど。。。
ただメリットはあっても、基本的に家族への信託は特別すばらしい制度ではないため、
よっぽど子どもが信じられて、大きなメリットを感じることが無い限り、おすすめしにくい、と私たちは考えています。
やはり後見のような法的機関(家裁)が関与しない分、リスクが高いのではと考えます。
また、逆に信託にはできなくて、成年後見や遺言でないとできないこともあります。
(受託者には身上監護権がなく、いざ施設への入居の際、本人に代わって契約手続きを行うことができない → 成年後見制度を利用)
上記のような事情を踏まえた上で、家族への信託を選択されることをご検討されるのでしたら問題はないでしょう。
しかしそれよりも、突然の相続のために生前対策をしっかり行い、
認知症や意志能力が無くなったときのために、まずは任意後見を信頼できる人に依頼しておくことの方が大切ではないかと私たちは考えています。